縋(すがる)
 
縋(すがる)  

風に舞う天衣は、たおやかな稜線を描き、
棟はそれに従って優美な姿を見せる。
軒先を繋ぐ曲線の縋るは、緩やかにその先端を結び、
流れ下る雨滴は美へ昇華する。
私たち伊東工務店は大和心という古の造形感覚を
大切にしたいと考えています。

この屋根の場合、桁ゆき方向に下る屋根(棟に対して平行)と梁間方 向に下る屋根(棟に対して直角)を出隅部分で合致させようとすると き、傾斜する屋根面は左右とも同じ位置にきません。そこで、もういち ど二つの屋根がゆるやかに馴染む屋根を曲面で当てはめて造ります。こ の部分の曲線部分で構成される箇所を「縋る(すがる)」といいます。 従って’この建物では左右に4箇所と正面2箇所に縋るとい うところが出来てきます。 この屋根を俯瞰して、三つ葉四葉殿造り(みつばしようとのつくり)と いいます。(寝殿造り) 平安時代の住居の姿をほぼ完全に残し、源氏物語や枕草子の語られた住 居の姿がここにあります。後ろ側の本殿は覆い屋となっていますが、そ の甍と軒先の曲線は直線的でもあり、それでいて、たおやかな平安の軒 先線となっています。 解説は視点の軸足を変え、風に舞う天衣という書き出しで始まります。 天衣はこの時代の仏像にまとわる細長い手ぬぐいのようなものをいいま す。代表的なものに平等院の雲中供養菩薩、阿弥陀来迎図などがあり、 平安時代の彫刻と浄土思想が表現されています。 蒼天から舞降りる菩薩は、纏わる天衣を風になびかせ、穏やかな風が描 く優美な線と裾影のやわらかな形を屋根の造形に写したのではないかと 錯覚してしまいます。 一枚の布を纏って覆うように表現する屋根の姿からは洗練された古の工 匠の感覚とそれを裏付ける技術があったと思います。なぜなら単層の屋 根を支える垂木は力垂木となっています。後世の建築に見られるような 野垂木下地、配付け化粧垂木とはなっておらず直接檜皮を葺き上げてい ます。かなり高度な規矩術を使っていると思います。棟というのは、本 来屋根の頂きの甍と下り棟を示しています。文章はそんなことを考えな がら、文学的に想像するようなことばとして表現しました。  まったくの私見ですが、古の工匠の雨に対峙する屋根の造形感覚は、 自然を恐れ、従い、そして降りしきる雨のその形を変え、優美な姿へ変 化させるという発想もあったのではないかと想像したくなります。 何故、わざわざ面倒な曲線を多用したのか。多分対岸の平等院の優雅な 美に合わせて、考えているのかもしれません。桁ゆき六間、梁間三間の 拝殿の長い桁ゆきの屋根が、建築造形を破状させずに成立させたのか も、設計企画部分のかなりの実力があったものであると思います。拝殿 の屋根だけの曲線は全部で8種類27カ所もあります。平安 の俤は拝殿正面 を見上げるとき、蒼天と軒先先端が描く曲線の均衡から 感じられます。 たおやかという印象は、同じ曲線であっても何となく和的な弱々しいさ と、繊細で優美なという意味を込め、本居宣長の和歌の印象から大和心 という一括した言葉としました。多分この時代の造形感覚に含まれてい ると考えます。 この神社は平等院等も含めて世界遺産となっています。以外と知られて いない場所でもあります。何年か前に訪れたときの屋根の清々しい印象 と雅な曲線が印象的であったことを思い出し今年の課題にそったビジュ アル表現をこころみました。                                      
撮影場所 京都 宇治上神社 拝殿 
平成19年7月
 
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