船 入
 
間の旋律は均衡する陰翳に爽やかな調べを奏でます。

船入
風は払暁の香りを留め、間は流麗な余韻に際立つ。
静と動の均衡は光芒に季節のうつろいを染め
閑寂は闇に冴え、豊饒の予感と古の輝きに昇華する。
私たち伊東工務店は、この行間に均衡する空間の旋律を
現代建築へ織り込んで行きたいと考えています。

訪づれる人の姿は頭を垂れ、かがみながら縁に辿りつきます。侵入す る姿勢の妙と動線を上手に使い、闇と障子と縁と人は、足下の風景の奥 行に気配を仕掛け、「寂び」という日本の美意識をつくり出します。す べてが建築空間の旋律に従い、その動作に上品な姿勢へ矯正させます。 自然は流れるように華麗に写ります。意外性を上質に仕上げ、人の姿勢 に品を与え、足下の景が誘(いざなう)幻視は、穏やかな湖水面をぎり ぎりに飛翔する鳥の視線を想像させる奥行きと広がりを観せています。 景は空間の余白(闇の陰翳)に均衡します。旋律、結界、余白の均衡を 超えた一瞬の「さび」の風景と、人と自然の織りなす気配と鼓動が流麗 に現れてきます。小堀遠州最晩年の傑作は、その完成度の頂点にあり、 古の輝きは、永遠の今を語り続けています。 少し視点を変えて話せば、半眼に開いた仏像の内側から、日本の景を昇 華し、自然を超えた人工の自然美、広がり、奥行き、立体空間造形芸術 の古典的手法の完成と見てよいと考えます。主庭園を脇から見るという 二次的になりがちな姿を船入という形式で昇華し、精神的なやすらぎに 通じた空間になります。 船入という行間の造形はこの空間の旋律の流れからの「さび」への仕掛 けであり、関わり合う人の気配と鼓動の絶妙な関係に於いて完成され、 無心へ向かって流麗に流れ、意外性を上質に昇華する「奇麗寂び」とい う日本の美意識のひとつに数えられます。 どうもこの場所は、床を背景に座ると、無心という境地へ向かい、虚心 へ向かって流麗に跳躍し、半眼という仏像の目の中の後から見た風景に 見えなくもない。一歩下がって、人の関わりの思い出や、俤はこの場所 に座っているとわき上がってくるかのようです。 それは、夏という季節にあり、紗(うすぎぬ )を梳かすように記憶は 皎々(こうこう)たる白日の安息の夢の中に蘇ってくる。そんな意識の 奥底へ向かわせる造形の仕掛けのすごさを感じる、というのが私のこの 場所での感想です。

撮影場所 京都大徳寺 孤篷庵
 
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